プレホスピタルケア

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救命治療

MAST:命を守るための使い方

救命医療の現場でかつて広く使われていた医療機器、抗ショックズボン。これは、空気圧で下半身を締め付けることで、血液を心臓や脳など生命維持に欠かせない臓器へ送るように設計されています。ショック状態にある傷病者を救うための道具として、戦場での活用から始まり、救急医療の現場で広く使われてきました。しかし、近年ではその使用には慎重な判断が必要とされています。 抗ショックズボンは、空気を入れて膨らませることで下半身を圧迫し、血液を上半身に押し上げます。これにより、一時的に血圧を上昇させ、ショック状態の症状を和らげることができます。特に、出血量の多い外傷の場合や、心臓のポンプ機能が低下している場合に効果が期待できると考えられていました。 しかし、研究が進むにつれ、抗ショックズボンの効果に疑問が投げかけられるようになりました。多くの研究で、抗ショックズボンを使用しても生存率の向上は見られないという結果が出ています。むしろ、使用による合併症のリスクが指摘されるようになり、その使用には慎重さが求められています。例えば、長時間使用すると血流が妨げられ、組織への酸素供給が不足する可能性があります。また、下肢の腫れや痛み、神経障害といった合併症も報告されています。 現在では、抗ショックズボンは限定的な状況でのみ使用が推奨されています。例えば、他の治療法が有効でない場合や、搬送に時間がかかる場合などです。しかし、使用の際は必ず医師の指示に従い、適切な方法で使用することが重要です。そして、常に傷病者の状態を注意深く観察し、異常が見られた場合はすぐに使用を中止する必要があります。
救命治療

命に関わる緊張性気胸:緊急時の対処法

緊張性気胸は、肺に穴があき空気が肺の外、胸の中に出ることで肺がしぼんでしまう病気の一つである気胸の中でも、特に命に関わる危険な状態です。肺を包む胸膜には、内臓を覆う壁側胸膜と肺の表面を覆う臓側胸膜の二種類があり、通常は肺はこれら二枚の胸膜の間に薄い液体の膜によってぴったりとくっついています。しかし、肺に穴があくと、肺から空気が漏れ出し、この二枚の胸膜の間に空気がたまっていきます。これが気胸です。 緊張性気胸では、この肺の穴が弁の役割を果たしてしまい、息を吸う時に胸の中に空気が入り込みますが、息を吐く時には空気が出てこらず、胸の中に空気がどんどん溜まっていきます。まるで空気の抜けない穴の開いた風船に、ポンプで空気を入れ続けているようなものです。この結果、胸の中の圧力(胸腔内圧)が異常に高くなり、肺だけでなく心臓や血管なども圧迫されてしまいます。 心臓や血管が圧迫されると、全身に血液を送るポンプとしての心臓の働きが弱まり、血液の循環が悪くなります。これは、血圧の低下やショック状態(脈拍が速くなり、冷や汗をかき、意識が薄れていく状態)につながり、最悪の場合、心停止に至ることもあります。 緊張性気胸は一刻を争う状態であり、一刻も早く胸の中の空気を抜く処置をしなければなりません。針を胸に刺して空気を抜く応急処置がとられることもあります。その後、管を胸に挿入し、空気を排出する持続的な排気を行います。根本的な治療には、手術が必要になる場合もあります。早期発見と迅速な対応が、救命に繋がる重要な鍵となります。