悪性高熱症:全身麻酔の合併症
悪性高熱症は、全身麻酔時に起こる重い合併症です。初めて知られたのは1960年で、特定の麻酔薬によって引き起こされる、命に関わる可能性のある病気です。この病気は、全身麻酔を受けた人がごくまれに発症します。かつては発症すると亡くなる方が非常に多く、医療現場では常に気をつけなければいけない病気の一つとされてきました。現在は治療法が進歩したおかげで亡くなる方は減りましたが、それでも注意が必要な病気であることに変わりはありません。
悪性高熱症は、筋肉の細胞の中でカルシウムのバランスが崩れることで起こると考えられています。通常、筋肉は脳からの信号を受け取ると、細胞内にあるカルシウムイオンを放出して収縮します。そして、信号がなくなるとカルシウムイオンは細胞内に戻り、筋肉は弛緩します。しかし、悪性高熱症の患者さんの場合、特定の麻酔薬を使うと、このカルシウムイオンの出し入れがうまくいかなくなります。カルシウムイオンが過剰に放出され続けると、筋肉は異常に収縮し続け、熱が発生します。これが高熱や筋肉の硬直といった症状につながります。
悪性高熱症の原因となる遺伝子の異常はいくつか発見されていて、これらの遺伝子はカルシウムイオンの出し入れを調節するタンパク質を作る役割を担っています。遺伝子の異常があると、このタンパク質が正常に働かなくなり、麻酔薬の影響でカルシウムイオンのバランスが崩れやすくなると考えられています。つまり、悪性高熱症は遺伝的な要因が大きく関わっている病気と言えるでしょう。詳しい仕組みはまだすべてが解明されているわけではありませんが、研究が進められています。早期発見と適切な処置が、悪性高熱症の患者さんの命を守る上で非常に重要です。