循環

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救命治療

ファウラー体位:安心と安全を守る

ファウラー体位は、患者さんを仰向けに寝かせた状態で、下肢を水平に保ちつつ、上半身を45度程度起こした姿勢を指します。この角度は状況に応じて調整され、30度から90度までの範囲で変化します。もともとは、腹部の手術を受けた患者さんの回復を助けるために考案されました。 腹部の手術後、体の中に溜まった液体は、重力の影響を受けて自然に流れ出すことが望まれます。ファウラー体位をとることで、お腹の部分に溜まった液体が、よりスムーズに排出されます。これは、術後の合併症を防ぎ、回復を早める上で重要な役割を果たします。 また、この体位は呼吸を楽にする効果も期待できます。上半身を起こすことで、横隔膜への圧迫が軽減され、肺により多くの空気が入るようになります。そのため、呼吸が浅くなりがちな患者さんや、肺の病気を抱える患者さんにとって、楽に呼吸ができる体位と言えるでしょう。 さらに、栄養補給のための管を鼻や口から胃に挿入している場合にも、ファウラー体位は有効です。上半身を起こすことで、栄養剤が逆流するのを防ぎ、誤って肺に入ってしまう危険性を減らすことができます。 このように、ファウラー体位は患者さんの状態に合わせて角度を調整することで、体液の排出促進、呼吸の補助、栄養補給の安全確保など、様々な効果が期待できるため、医療現場で幅広く活用されている、患者さんにとって安全で快適な体位です。しかし、この体位を長時間維持すると、腰やお尻に負担がかかる場合もあります。そのため、看護師や医師は定期的に体位を変えたり、クッションなどで体を支えたりするなど、患者さんの状態に注意を払いながら、適切なケアを行う必要があります。
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奇脈:その正体と危険性

奇脈とは、呼吸と血圧の関連性に異常が見られる現象です。健康な人であれば、息を吸い込む際に胸腔内圧が変化することで、収縮期血圧、つまり心臓が縮んで血液を送り出す時の血圧は数ミリメートル水銀柱程度、わずかに下がります。しかし、奇脈の場合、この血圧の低下が10ミリメートル水銀柱以上にもなります。 息を吸うと、胸腔が広がり肺に空気が入ります。この時、心臓に戻る血液の量が一時的に減少します。通常は、この変化は軽微で、血圧への影響は限定的です。しかし、心臓や肺、血管などに問題があると、この影響が増幅され、大きな血圧の低下として現れることがあります。これが奇脈のメカニズムです。同時に、脈拍が弱まったり、触れにくくなったりすることもあります。 奇脈自体は病気ではありません。しかし、心臓を包む膜(心膜)に水が溜まる心膜液貯留や、肺の病気、気管支喘息、肺塞栓症などの呼吸器疾患、あるいはショック状態など、様々な病気が隠れているサインである可能性があります。また、弁膜症などの心臓自身の病気も原因となることがあります。健康診断などで奇脈を指摘された場合は、放置せずに必ず医師の指示に従い、精密検査を受けることが大切です。 普段から家庭用の血圧計などで血圧と脈拍を測定する習慣をつけ、自分の正常な状態を把握しておくことも重要です。そして、少しでも異変を感じたら、速やかに医療機関に相談しましょう。早期発見、早期治療が健康を守る上で重要です。