腹臥位呼吸療法:急性呼吸不全の切り札
人は生きていく上で息をすることが欠かせません。呼吸ができなくなることは命に関わる一大事であり、すぐに適切な処置が必要です。呼吸ができなくなる状態の中でも、特に急性の呼吸窮迫症候群(エーアールディーエス)は病状が急速に悪化しやすく、救命が難しい病気です。そのため、少しでも助かる可能性を高めるための新しい治療法が常に求められています。
近年、注目されている治療法の一つに、腹臥位呼吸療法があります。これは、患者さんをうつぶせの状態にして人工呼吸器をつける方法です。これまで行われてきたあおむけの姿勢での治療と比べると、血液中の酸素の量を増やす効果が高いことが報告されています。
この腹臥位呼吸療法は、肺の中で空気が入る部分と血液が流れる部分が、重力の影響を受けることでより効率的に働くようになるため、酸素の取り込みが良くなると考えられています。肺の後ろ側は、心臓などの臓器に押されて小さくなりがちですが、うつぶせになることで肺全体が均等に膨らみやすくなります。また、あおむけの姿勢では、肺の後ろ側に体液がたまりやすいのですが、うつぶせになることでその体液が分散し、呼吸が楽になるとも言われています。
このように、腹臥位呼吸療法は、重症の呼吸不全の患者さんにとって、救命につながる可能性のある有効な治療法です。しかし、うつぶせにすることで、顔や体の向きを変えることが難しくなるため、適切な体位管理や皮膚のケア、人工呼吸器の管理など、医療従事者の丁寧な処置が必要となります。今後、この治療法がより多くの患者さんに安全かつ効果的に行われるよう、研究や技術開発が進むことが期待されています。