脳死:その定義と法的・臨床的側面
脳死とは、人の全ての脳の働きが完全に、そして永久に失われた状態のことを指します。脳は、私たちの体全体の機能を調節する司令塔のような役割を担っており、呼吸や心臓の拍動、体温の調節など、生命を維持するために欠かせない機能も脳によって制御されています。そのため、脳が完全に機能しなくなると、これらの機能も止まり、自力で生命を維持することができなくなります。
脳死は、単なる意識がない状態とは大きく異なります。意識がない状態とは、脳の一部が損傷を受けたことで意識を失っている状態であり、回復する可能性も残されています。しかし、脳死は脳全体が機能を失っており、二度と回復することはありません。つまり、不可逆的な状態なのです。脳死状態では、人工呼吸器などの医療機器によって心臓が動いている状態を保っているだけで、機器を取り外すと心臓も停止します。
脳死の原因は様々ですが、交通事故などによる頭部への強い衝撃や、病気による脳への酸素供給不足などが主な原因として挙げられます。脳死と診断されるためには、厳格な検査が行われます。深い昏睡状態、自発呼吸の消失、脳幹反射の消失といった臨床症状に加え、脳波検査や脳血流検査などの精密検査の結果を総合的に判断し、最終的に医師複数名によって判定されます。脳死は人の死を判定する上で重要な概念であり、臓器移植の可否を判断する上でも重要な基準となります。