
薬剤の交叉耐性:思わぬ落とし穴
薬剤に抵抗する力、すなわち薬剤耐性とは、繰り返し薬を使うことで、以前と同じ量では効き目が薄れる現象を指します。私たちの体は、外部から侵入してきた異物や体に害のある物質を排除するための精巧な仕組みを持っています。薬も体にとっては異物であるため、長い期間にわたって同じ薬を飲み続けると、体は薬を分解したり、薬の効果を弱める方法を学習してしまいます。この学習の結果、以前と同じ効果を得るには、薬の量を増やす必要が生じます。これはまるで、敵の攻撃に慣れ、より強い防御力を身につけるようなものです。
薬剤耐性は、細菌やウイルス、がん細胞など、様々な病原体で起こり得ます。例えば、細菌感染症の治療に抗生物質を使用する場合、抗生物質が効かなくなった細菌は生き残り、増殖していきます。こうして薬剤耐性菌が生まれます。薬剤耐性菌による感染症は、治療が難しく、重症化しやすい危険性があります。
薬剤耐性は、風邪薬や痛み止めのような、私たちにとって身近な薬でも起こり得ます。例えば、頭痛薬を常用していると、以前と同じ量では頭痛を抑えられなくなることがあります。これは、体が頭痛薬に慣れてしまい、薬の効果が弱まっていることを示しています。
薬剤耐性は、適切な治療を妨げる大きな要因となります。薬が効かなくなることで、病気の治りが遅くなったり、重症化したりする可能性があります。そのため、薬剤耐性を防ぐため、医師の指示に従って適切に薬を使用することが重要です。自己判断で薬の量や服用期間を変えたり、症状が軽快しても勝手に服用を中止したりすることは避けなければなりません。また、感染症予防の基本である手洗い、うがい、咳エチケットなどを徹底することも、薬剤耐性菌の発生や蔓延を防ぐ上で重要です。