物語で病気を理解する:NBMとは
近年の医療現場では、確かな証拠に基づく治療法が重視されています。これは、科学的な研究結果から得られたデータをもとに、最も効果的で安全な治療法を選択するという考え方です。しかし、このような科学的な医療だけで全てが解決するわけではありません。同じ病気であっても、患者一人ひとりの生活や考え方、感じ方は違います。このような一人ひとりの違いを大切にする新しい医療の形として、「物語医療」が登場しました。
物語医療は、患者を病気を持った「個」として捉えます。患者はそれぞれの人生を歩んできており、病気になった背景や感じている苦しみも様々です。物語医療では、医師が患者の話をじっくりと聞き、その人の人生や価値観、病気に対する思いを理解しようとします。例えば、仕事に情熱を注いでいる人にとって、病気で働けなくなることは大きな苦しみとなるでしょう。また、家族を支えている人にとって、病気は家族への負担となることを心配するでしょう。このような、数値やデータには表れない、患者それぞれの状況や気持ちを理解することが、物語医療では重要です。
医師が患者の物語に耳を傾けることで、病気の本当の原因や患者が抱える悩みの本質が見えてきます。すると、患者にとって本当に必要な治療やケアが見えてきます。例えば、痛みが強い患者にとって、痛み止めを使うだけでなく、痛みの原因となっている不安やストレスを取り除くことが大切かもしれません。また、病気が治った後も、社会復帰への不安を抱えている患者には、心のケアや社会的な支援が必要となるでしょう。
このように、物語医療は、患者一人ひとりの物語を尊重し、共有することで、より良い医療を実現しようとする試みです。患者中心の医療を実現するためには、科学的な医療と物語医療の両方が必要と言えるでしょう。