ストロンチウム90:知っておくべきこと

ストロンチウム90:知っておくべきこと

防災を知りたい

先生、「ストロンチウム90」ってよく災害のニュースで聞きますが、何のことですか?

防災アドバイザー

ストロンチウム90は放射線を出す物質で、原子力発電などに関係しています。自然界にはほとんど存在せず、人工的に作られたものです。原発事故などで環境中に放出されると、人体に取り込まれて健康に害を及ぼす可能性があります。

防災を知りたい

人体に取り込まれるというのは、どういうことですか?

防災アドバイザー

食べ物や飲み物、呼吸を通して体の中に入り、骨に蓄積される性質があります。そこで長い間放射線を出し続けるため、骨の病気や白血病などの原因となることが懸念されています。そのため、原発事故後などは食品の検査などが厳重に行われます。

ストロンチウム90とは。

災害と防災に関連する言葉「ストロンチウム90」について説明します。ストロンチウム90は、原子番号38のストロンチウムという物質の放射線を出す仲間です。これは、約29年で半分に減る性質があり、放射線の一種であるベータ線を出して変化します。そして、同じくベータ線を出して変化するイットリウム90という物質を経て、安定したジルコニウム90という物質になります。

ストロンチウム90とは

ストロンチウム90とは

陽子と中性子からなる原子核のうち、陽子の数が同じで中性子の数が異なるものを同位体と呼びます。ストロンチウムという物質にも様々な同位体が存在し、その一つがストロンチウム90です。このストロンチウム90は、自然界には存在しない人工の放射性物質です。つまり、人間の活動、具体的には原子力発電所における核分裂反応や核兵器実験などによって生み出されるものです。

ストロンチウム90は、放射線を出しながら別の物質に変化する性質、いわゆる放射性崩壊を起こします。この時、ストロンチウム90が放出するのはベータ線と呼ばれる放射線です。ベータ線は、ある程度の透過力を持っているため、紙一枚では遮ることができません。しかし、薄い金属板などを使用すれば、ベータ線を遮蔽することが可能です。

ストロンチウム90は、他の放射性物質と比較して比較的長い半減期を持つことが特徴です。半減期とは、放射性物質の量が半分に減るまでの期間のことです。ストロンチウム90の半減期は約29年です。これは、環境中に放出されたストロンチウム90が、約29年経つと放射線の量が半分に減ることを意味しますが、完全に無くなるわけではありません。さらに29年経つと残りの量がまた半分になり、この減少は続きます。このように、ストロンチウム90は長期間にわたって環境中に存在し続けるため、人体に取り込まれた場合、骨に蓄積し長期間にわたって内部被ばくを引き起こす可能性があり、健康への影響が懸念されています。そのため、環境中への放出を極力抑えるとともに、適切な監視体制を維持することが重要です。

項目 内容
物質名 ストロンチウム90
種類 人工放射性物質
生成原因 核分裂反応、核兵器実験
放射線の種類 ベータ線
ベータ線の遮蔽 薄い金属板などで可能
半減期 約29年
人体への影響 骨に蓄積し、長期間にわたる内部被ばくの可能性
対策 環境中への放出抑制、適切な監視体制の維持

人体への影響

人体への影響

ストロンチウム90は、カルシウムによく似た性質を持っており、体内に入ると骨に蓄積しやすい性質があります。私達が普段口にする食べ物や飲み物から取り込まれたストロンチウム90は、骨に沈着し、そこから長い期間にわたってベータ線を出し続けます。このベータ線は、骨の細胞や、血液を作る骨髄などに影響を与え、白血病などの血液のがんや、骨の腫瘍といった病気を引き起こす可能性を高めます。特に、骨の成長が盛んな子供は、ストロンチウム90の影響をより受けやすいと考えられています。子供の骨は、大人と比べて新しい骨を作るサイクルが速いため、ストロンチウム90を取り込みやすいのです。

さらに、ストロンチウム90は母乳にも移行することが知られています。そのため、授乳中の母親がストロンチウム90を摂取すると、母乳を通して赤ちゃんにも影響を与える可能性があるのです。赤ちゃんの体は大人よりも小さく、細胞分裂も活発なため、放射線の影響を受けやすい状態にあります。これらのことから、放射能汚染が発生した場合、食品を介したストロンチウム90の体内への取り込みに注意を払う必要があります。特に、成長期の子供や、妊娠中・授乳中の母親は、ストロンチウム90の影響を受けやすいため、より一層の注意が必要です。汚染された食品を避ける、汚染地域産の食品の摂取を控えるなど、状況に応じて適切な対策をとる必要があります。また、乳幼児への影響を最小限にするためにも、母乳を通してのストロンチウム90の移行を防ぐための対策も重要です。

ストロンチウム90の影響 詳細 特に影響を受けやすい人
体内への蓄積 カルシウムと似た性質のため、食品から摂取されると骨に蓄積し、ベータ線を長期間出し続ける。 成長期の子供、妊娠中・授乳中の母親
健康への影響 骨の細胞や骨髄に影響を与え、白血病などの血液がんや骨の腫瘍のリスクを高める。
母乳への移行 母乳にも移行するため、授乳中の母親が摂取すると赤ちゃんにも影響を与える可能性がある。

環境への影響

環境への影響

ストロンチウム90は、環境に深刻な影響を与える放射性物質です。大気中や土、水などに放出されると、様々な経路を通じて私たちの暮らしに脅威をもたらします。

まず、植物は土壌からストロンチウム90を吸収します。これは、植物が栄養分を吸収する仕組みと似ています。そのため、汚染された土壌で育った野菜や果物、穀物などを私たちが口にすると、体内にストロンチウム90が取り込まれてしまうのです。また、動物も汚染された植物や水を摂取することで、ストロンチウム90を体内に蓄積します。そして、私たちがこれらの動物の肉や乳製品などを食べると、食物連鎖を通じてストロンチウム90が私たちの体内に濃縮されていくことになります。これが生物濃縮と呼ばれる現象です。食物連鎖の上位に行くほど、生物の体内のストロンチウム90の濃度が高くなるため、特に食物連鎖の頂点に立つ人間は、より高い危険にさらされることになります。

さらに、ストロンチウム90は水に溶けやすい性質を持っているため、雨水などによって土壌から河川や湖、海へと流れ込みます。これにより、水生生物もストロンチウム90の影響を受けることになります。魚や貝類などの水生生物がストロンチウム90を体内に蓄積し、それを人間が食べることで、私たちの被曝量はさらに増加する可能性があります。

ストロンチウム90は、環境中に長期間留まるという問題も抱えています。そのため、一度環境が汚染されると、その影響は長期にわたって続くことになります。将来世代への影響も懸念されるため、ストロンチウム90の環境放出を防ぐ対策と、汚染された環境の除染技術の開発が重要です。

除去の方法

除去の方法

放射性物質であるストロンチウム90は、万が一環境中に放出されると、土や水などを汚染し、健康に深刻な影響を与える可能性があります。そのため、ストロンチウム90に汚染された土や水をきれいにする除去作業は非常に重要です。土壌の除染方法はいくつかあります。まず、汚染された土壌を物理的に取り除く方法です。これは、汚染された土壌を重機などで掘り起こし、安全な場所に運搬して保管する方法です。比較的、汚染の範囲が限定されている場合に有効です。しかし、広範囲に汚染が広がっている場合は、莫大な費用と時間がかかるため、現実的でない場合もあります。次に、土壌を洗浄する方法です。特殊な洗浄液を用いて土壌中のストロンチウム90を洗い流し、汚染されていない土壌と分離します。この方法は、土壌を物理的に取り除く方法よりも費用を抑えられる場合がありますが、洗浄液の処理など、二次的な汚染を防ぐ対策が必要となります。さらに、特殊な薬剤を用いてストロンチウム90を土壌から分離する方法もあります。この方法は、土壌の性質や汚染の程度に応じて適切な薬剤を選択する必要があり、高度な技術と専門知識が求められます。水の場合も、汚染された水を浄化する方法はいくつかあります。ろ過は、特殊なフィルターを用いてストロンチウム90などの放射性物質を除去する方法です。比較的簡便な方法ですが、フィルターの交換が必要となるため、維持管理に費用がかかります。また、イオン交換樹脂を用いる方法もあります。これは、ストロンチウム90と結合しやすい性質を持つ樹脂を用いて、水中のストロンチウム90を選択的に吸着する方法です。この方法は、高い除去効率を期待できますが、樹脂の再生や処理が必要となります。ストロンチウム90は化学的に安定な物質であるため、これらの方法を用いても完全に除去することは非常に難しいです。また、除去作業には多額の費用と長い時間がかかるため、汚染の程度や範囲、環境への影響、費用対効果などを総合的に考慮して、最適な方法を選択する必要があります。それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、状況に応じて適切な方法を組み合わせることも重要です。

対象 除染方法 概要 メリット デメリット
土壌 物理的除去 汚染土壌を重機で掘り起こし、安全な場所に運搬・保管 汚染範囲が限定的な場合に有効 広範囲の汚染には費用と時間がかかる
土壌洗浄 特殊な洗浄液でストロンチウム90を洗い流し、汚染されていない土壌と分離 物理的除去より低コストの場合あり 洗浄液の処理による二次汚染の懸念
薬剤による分離 特殊な薬剤でストロンチウム90を土壌から分離 高度な技術と専門知識が必要
ろ過 特殊なフィルターで放射性物質を除去 比較的簡便 フィルター交換費用が必要
イオン交換樹脂 ストロンチウム90と結合しやすい樹脂で吸着 高い除去効率 樹脂の再生・処理が必要

事故の事例

事故の事例

原子力発電所の事故は、私たちの暮らしに大きな影を落とす、深刻な災害です。中でも、ストロンチウム90による環境汚染は、長期にわたる健康被害を引き起こす可能性があるため、特に注意が必要です。ここでは、ストロンチウム90による環境汚染の事例を詳しく見ていきましょう。

1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故は、ストロンチウム90による環境汚染の深刻さを世界に知らしめました。この事故では、大量の放射性物質が大気中に放出され、広範囲にわたって土壌や水が汚染されました。ストロンチウム90は、カルシウムと似た性質を持つため、骨に蓄積しやすく、白血病などの発症リスクを高めることが懸念されています。事故の影響は今もなお続いており、周辺地域では、健康被害や経済的な損失が報告されています。

2011年に起きた福島第一原子力発電所事故も、ストロンチウム90による環境汚染を引き起こしました。地震と津波によって引き起こされたこの事故では、原子炉の冷却機能が失われ、放射性物質が放出されました。福島県内はもちろんのこと、周辺の県でもストロンチウム90が検出され、農作物や水産物への影響も懸念されました。この事故をきっかけに、原子力発電所の安全対策の見直しや、再生可能エネルギーの導入促進など、エネルギー政策全体の見直しが進められています。

これらの事故から得られた教訓は、原子力発電所の安全対策を強化すること、そして、万が一事故が起きた場合に備えて、適切な避難計画や除染方法を確立しておくことが非常に重要だということです。また、放射性物質の管理を徹底し、環境への影響を最小限に抑える努力も必要です。私たちは、これらの事故の記憶を風化させることなく、未来への教訓として活かしていく必要があります。原子力の利用については、安全性を最優先に考え、慎重な判断が求められます。

事故名 発生年 概要 影響 教訓
チェルノブイリ原子力発電所事故 1986年 大量の放射性物質が大気中に放出され、広範囲にわたって土壌や水が汚染された。 ストロンチウム90による白血病などの発症リスク増加、長期にわたる健康被害、経済的な損失 原子力発電所の安全対策の強化、適切な避難計画や除染方法の確立、放射性物質の管理の徹底
福島第一原子力発電所事故 2011年 地震と津波によって原子炉の冷却機能が失われ、放射性物質が放出された。 農作物や水産物への影響、周辺県でもストロンチウム90が検出 原子力発電所の安全対策の見直し、再生可能エネルギーの導入促進、エネルギー政策全体の見直し