多発肋骨骨折:フレイルチェスト

多発肋骨骨折:フレイルチェスト

防災を知りたい

先生、『フレイルチェスト』って、肋骨が折れると必ずなるんですか?

防災アドバイザー

いいえ、必ずしもそうではありません。フレイルチェストは、複数の肋骨が2箇所以上で折れて、胸郭が不安定になった状態を指します。単純な肋骨骨折とは少し違います。

防災を知りたい

じゃあ、肋骨が折れていても、胸郭がしっかりしていればフレイルチェストではないんですね?

防災アドバイザー

その通りです。さらに、胸がへこんだり、呼吸がおかしい『奇異呼吸』という症状もフレイルチェストの特徴です。肋骨骨折に加えて、肺挫傷(肺の打撲)を伴うことも多いので、注意が必要です。

フレイルチェストとは。

災害時などに起こる胸部の怪我について説明します。強い衝撃で肋骨や胸骨が折れると、正常な呼吸ができなくなることがあります。特に、繋がっている肋骨が二ヶ所以上で折れると、その部分が不安定になり、呼吸のたびに胸がへこんだり膨らんだりする異常な動き(奇異呼吸)が見られます。これをフレイルチェストといいます。フレイルチェストは、胸の前側や下側で起こりやすく、肺の損傷を伴う場合も多いです。肋骨が折れると呼吸するのも咳をするのも痛いため、呼吸が浅くなり、肺がうまく膨らまない状態(無気肺)になりやすいです。また、肺の損傷は肺の働きを悪くし、血液中の酸素を減らし、呼吸不全につながります。肺の損傷を伴うフレイルチェストの治療では、痛みを十分に取り除き、呼吸不全に対する治療(人工呼吸器など)を行います。肋骨のずれが大きい場合や、人工呼吸器の使用期間を短くするために、手術で肋骨を固定することもあります。

定義と発生機序

定義と発生機序

胸部外傷の一つであるフレイルチェストは、強い衝撃によって複数の肋骨が折れ、胸郭の一部が不安定になることで起こります。交通事故や高所からの転落、殴打など、胸部に強い力が加わることで発生し、稀にスポーツ中の事故でも見られることがあります。

フレイルチェストの定義は、隣り合った二本以上の肋骨が、それぞれ二箇所以上で骨折している状態を指します。この骨折によって胸郭の一部が不安定になり、通常のリズムで呼吸することが困難になります。この不安定になった胸郭部分はフレイルセグメントと呼ばれ、呼吸に伴う胸郭全体の動きと逆の動きをします。

通常、息を吸うと胸郭は広がり、息を吐くと胸郭は縮みます。しかし、フレイルチェストの場合、息を吸う際にフレイルセグメントは内側に陥没し、息を吐く際にフレイルセグメントは外側に突出します。この異常な呼吸は奇異呼吸と呼ばれ、呼吸効率を著しく低下させます。結果として、十分な酸素を取り込めなくなり、呼吸困難に陥ります。

フレイルチェストは、胸部の前面や側面、特に下部で発生しやすいとされています。これは、肋骨の構造や筋肉の付き方などが関係していると考えられています。さらに、フレイルチェストは肺の損傷を伴うことが多く、肺挫傷や気胸、血胸などを合併する可能性が高いです。これらの合併症は呼吸困難をさらに悪化させ、生命の危険につながる場合もあります。そのため、迅速な診断と適切な処置が不可欠です。

項目 内容
定義 隣り合った二本以上の肋骨が、それぞれ二箇所以上で骨折している状態
原因 交通事故、高所からの転落、殴打など、胸部に強い力が加わること。稀にスポーツ中の事故。
発生機序 強い衝撃 → 複数の肋骨骨折 → 胸郭の一部が不安定化(フレイルセグメント) → 奇異呼吸 → 呼吸困難
奇異呼吸 吸気時にフレイルセグメントが陥没、呼気時に突出する異常な呼吸
好発部位 胸部の前面・側面、特に下部
合併症 肺挫傷、気胸、血胸など

症状と合併症

症状と合併症

胸郭の損傷であるフレイルチェストは、複数の肋骨が複数箇所で骨折することで、胸壁が不安定になり、呼吸困難を引き起こす重篤な状態です。主な症状は、胸の痛みと呼吸困難です。折れた肋骨による鋭い痛みは、息を深く吸い込むことや咳をすることを難しくさせます。これは、肺に十分な空気が入らなくなる原因となり、無気肺と呼ばれる状態を引き起こすことがあります。無気肺は、肺の一部が虚脱した状態であり、肺炎などの合併症のリスクを高めます。

さらに、フレイルチェストは、肺挫傷と呼ばれる肺の損傷を伴うことが少なくありません。肺挫傷は、肺組織の打撲であり、肺の機能を低下させ、血液中の酸素濃度を低下させます。結果として、呼吸不全に陥る可能性があります。呼吸不全とは、肺が十分な酸素を取り込めず、体内の二酸化炭素を排出できない状態であり、生命に関わる危険な状態です。

また、胸部に強い衝撃を受けた場合は、フレイルチェストだけでなく、心臓、大血管、横隔膜、肺などの他の臓器の損傷も合併している可能性があります。これらの損傷は、出血や機能不全を引き起こし、生命を脅かす重篤な状態につながることがあります。そのため、フレイルチェストの疑いがある場合は、速やかに医療機関を受診し、綿密な検査と適切な治療を受けることが重要です。特に、高齢者や呼吸器疾患の持病がある人は、フレイルチェストによる合併症のリスクが高いため、より注意深い観察が必要です。

症状と合併症

診断方法

診断方法

胸郭の損傷が原因で呼吸不全に陥るフレイルチェストの診断は、いくつかの方法を組み合わせて行います。まず、医師による診察が基本となります。医師は、患者の呼吸の様子を注意深く観察します。胸が吸う息、吐く息に合わせて規則正しく動いているか、左右で動きに違いがないか、吸う息と吐く息で胸の一部が反対に動いてしまう奇異呼吸と呼ばれる異常な動きがないかなどを確認します。これは、折れた肋骨が肺の動きを妨げているかどうかを判断する上で重要な手がかりとなります。

次に、胸部のレントゲン写真を撮影します。レントゲン写真では、骨が白く映るため、肋骨に骨折があるかどうか、また骨折の程度が一目で分かります。何本の肋骨が折れているのか、折れた部分がずれているのか、肺に穴が開いて空気が漏れていないかなども確認します。これらの情報は、フレイルチェストの重症度を判断するのに役立ちます。

さらに詳しい検査が必要な場合は、コンピューター断層撮影(CT)を行います。CTはレントゲン写真よりもはるかに詳細な画像を得ることができるため、肺の損傷の程度や、心臓、血管など、他の臓器に損傷がないかを正確に診断できます。レントゲン写真では分かりにくい肺挫傷(肺の打撲)の有無や程度もCTであれば診断可能です。フレイルチェストは重症化すると命に関わることもあるため、的確な診断と迅速な治療が非常に重要です。

診断方法 目的 詳細
医師による診察 呼吸状態の観察 胸の動きの規則性、左右差、奇異呼吸の有無を確認し、肋骨骨折による肺への影響を判断
胸部レントゲン写真 肋骨骨折の確認 骨折の有無、程度、本数、ずれ、気胸の有無を確認し、フレイルチェストの重症度を判断
コンピューター断層撮影(CT) 詳細な肺損傷、他臓器損傷の確認 肺損傷の程度、心臓・血管など他臓器への影響、レントゲン写真では分かりにくい肺挫傷の有無・程度を診断

治療方法

治療方法

胸郭損傷の中でも複数の肋骨が複数箇所で骨折し、胸壁が不安定になるフレイルチェスト。この状態は、呼吸機能に深刻な影響を及ぼすため、迅速な治療が必要です。治療の主な目的は、痛みを軽減することと、十分な呼吸を確保することにあります。

激しい痛みは、呼吸を浅くし、肺の機能をさらに低下させるため、痛みを抑えることが最優先事項です。そのために、痛み止めの薬が用いられます。痛みの程度に応じて、適切な種類の薬と量が選ばれます。

呼吸の補助には、酸素吸入が行われます。酸素マスクや鼻カニューレを用いて、肺に十分な酸素を送り込みます。呼吸が非常に苦しい場合や、血液中の酸素濃度が低い場合には、人工呼吸器が必要になることもあります。人工呼吸器は、自力で呼吸することが難しい患者さんの肺に、機械的に空気を送り込む装置です。

骨折した肋骨のずれが大きく、胸壁の不安定さが著しい場合は、手術で肋骨を固定することがあります。金属製のプレートやワイヤーを用いて、骨折した肋骨を元の位置に戻し、安定させます。これにより、胸壁の動きが安定し、呼吸がしやすくなります。

フレイルチェストに伴って肺挫傷(肺の打撲)が生じている場合は、呼吸機能がさらに低下するため、注意深い観察と治療が必要です。肺挫傷は、肺に水が溜まるなどして、酸素の取り込みを阻害します。この場合、呼吸管理を徹底し、肺の状態を改善させるための治療が行われます。場合によっては、痰を取り除く処置や、人工呼吸器による補助が必要になることもあります。

症状 治療目的 治療方法
複数の肋骨が複数箇所で骨折し、胸壁が不安定になる 痛み軽減、十分な呼吸確保 痛み止め、酸素吸入、人工呼吸器
激しい痛み 呼吸を深くする 痛み止め
呼吸困難 呼吸補助 酸素吸入(酸素マスク、鼻カニューレ)、人工呼吸器
骨折した肋骨のずれが大きく、胸壁の不安定さが著しい 胸壁の安定化 手術による肋骨固定
フレイルチェストに伴う肺挫傷 呼吸機能の改善 呼吸管理、痰の除去、人工呼吸器

予後

予後

{肋骨骨折が複数箇所で起こり、胸郭が不安定になるフレイルチェストは、その重症度や合併症の有無によって回復の見込みが大きく変わります。軽症の場合、つまり骨折の数や範囲が小さく、他の臓器への損傷がない場合は、適切な痛みを抑える治療を行うことで、通常は良好な経過をたどり、日常生活への支障も少なくて済みます。しかし、重症の場合、例えば多数の肋骨が折れて胸郭の不安定性が大きい場合や、肺挫傷(肺の打撲)などの合併症を伴う場合は、呼吸機能が低下し、呼吸不全や肺炎などの合併症を引き起こす可能性があり、回復の見込みは悪くなります。

フレイルチェストは、早期に適切な治療を開始することが非常に重要です。適切な痛みを抑えることで、深呼吸がしやすくなり、痰を出しやすくなるため、肺炎などの合併症を防ぐことに繋がります。また、胸郭の不安定性が大きい場合は、手術によって胸郭を安定させることもあります。

特に高齢者や持病のある方は、フレイルチェストを重症化しやすい傾向があるため、注意が必要です。高齢者は骨が弱く、骨折しやすいため、フレイルチェストになりやすいです。また、持病があると、免疫力が低下している場合があり、肺炎などの合併症を起こしやすくなります。そのため、高齢者や持病のある方は、胸に痛みを感じた場合は、すぐに医療機関を受診することが重要です。

フレイルチェストの回復には、患者さんの年齢、体力、合併症の有無など、様々な要因が影響します。医療機関を受診し、医師の指示に従って治療を受けることが、早期回復への近道と言えるでしょう。

重症度 合併症 呼吸機能 回復の見込み 治療
軽症 なし 正常 良好 痛みを抑える治療
重症 肺挫傷など 低下 不良 痛みを抑える治療、手術
リスクの高いグループ フレイルチェストのリスク 合併症のリスク
高齢者 骨が弱く、骨折しやすい 免疫力が低下している場合があり、肺炎などを起こしやすい
持病のある方 免疫力が低下している場合があり、肺炎などを起こしやすい

予防

予防

胸郭損傷のひとつである胸壁動揺は、交通事故や高いところからの落下といった強い衝撃によって起こることが多く、これらを防ぐことが重要です。

自動車に乗る際には、必ずシートベルトを締めましょう。シートベルトは、事故の際の衝撃を和らげ、体を固定することで、胸郭を含む体へのダメージを減らすのに役立ちます。また、家の中でも、階段や浴室などでの転倒を防ぐ対策をしっかりと行いましょう。手すりの設置や、滑りにくいマットの使用など、小さな工夫で転倒のリスクを減らすことができます。高齢者のいる家庭では、特に注意が必要です。

運動をするときには、体に合った防具をきちんと着用することも大切です。特に、人と人がぶつかり合う激しい運動では、胸に強い衝撃を受ける可能性が高くなります。防具は、外部からの衝撃を吸収し、胸郭や内臓を守る役割を果たします。柔道や剣道、アメリカンフットボールなど、防具の着用が推奨されている運動では、必ず着用するようにしましょう。また、自転車に乗る際にもヘルメットを着用することで、転倒時の頭部へのダメージだけでなく、胸部への衝撃も軽減できます。

これらの予防策を日頃から意識し、実践することで、胸壁動揺を含む胸部の怪我のリスクを大きく減らすことができます。安全な行動を心がけ、健康な毎日を送りましょう。

状況 予防策 目的
自動車乗車時 シートベルト着用 衝撃緩和、体固定による胸郭へのダメージ軽減
家庭内 手すり設置、滑り止めマット使用 転倒防止
運動時 適切な防具着用 外部からの衝撃吸収、胸郭および内臓保護
自転車乗車時 ヘルメット着用 頭部および胸部への衝撃軽減