在宅酸素療法と災害への備え

在宅酸素療法と災害への備え

在宅酸素療法とは

在宅酸素療法とは、自宅で酸素吸入を行う治療法のことです。慢性閉塞性肺疾患（肺気腫や慢性気管支炎など）や肺結核の後遺症、肺が硬くなってしまう肺線維症、肺がんといった肺の病気が原因で、慢性的に呼吸が苦しい状態になった方々にとって、在宅酸素療法は大切な治療法の一つです。また、生まれつき心臓に病気を持つチアノーゼ型心疾患や、肺の血管の圧力が高くなる特発性肺高血圧症なども、在宅酸素療法が必要となる場合があります。日本では在宅酸素療法を「在宅酸素療法」と呼びますが、「HOT（ホット）」と略されることもあります。

この治療では、細い管である鼻カニューレを用いて、酸素を鼻から体内に取り込みます。肺の病気によって肺の血管の圧力が高くなる状態を肺高血圧症と言いますが、この肺高血圧症は心臓にも負担をかけ、右心不全につながる危険性があります。在宅酸素療法は肺高血圧症の進行を抑え、心臓を守る効果が期待できます。特に、一日に15時間以上といった長時間、酸素吸入を行うことで、生存率の改善に繋がることが知られています。

酸素を供給する装置には、空気中から酸素を集めて濃縮する機械と、液体酸素を使う機械があります。近年では持ち運びできる小型の装置も開発されており、外出時にも酸素吸入を続けることが可能になりました。これにより、患者さんの生活の質の維持向上に役立っています。

災害時の備えの大切さ

災害はいつ起こるか分かりません。特に、在宅酸素療法を受けている方は、ライフラインの途絶による酸素供給停止という深刻なリスクに備える必要があります。平時の備えが、生死を分けることもあるのです。

まず、酸素供給に不可欠な機器の備えとして、予備の酸素ボンベとバッテリーは多めに用意しておきましょう。ボンベの残量やバッテリーの充電状態は、定期的に確認することが大切です。また、酸素供給装置の取扱説明書は普段からよく読んでおき、装置の操作方法を完全に理解しておきましょう。緊急時に慌てずに適切な対応ができるよう、家族にも使い方を教え、練習しておくと安心です。

停電に備えて、発電機や大容量のバッテリーを準備しておくことも重要です。発電機の燃料やバッテリーの充電器も忘れずに用意し、定期的な動作確認を行いましょう。さらに、かかりつけの病院や酸素供給業者との緊急連絡先を確認し、災害時の対応について相談しておくことも必要です。連絡がつかない場合の対応策も考えておきましょう。

自宅が被災した場合の避難場所や避難経路を日頃から確認し、家族で共有しておきましょう。避難所での酸素供給について、自治体や避難所の担当者に事前に相談しておくことも大切です。また、近所の人と日頃からコミュニケーションを取り、災害時に助け合える関係を築いておきましょう。緊急時の連絡方法や避難時の協力体制などを話し合っておくことが、いざという時の助けになります。

災害時は、まず落ち着いて行動し、正確な情報を基に行動しましょう。周りの人と協力し合い、一人では難しいことも力を合わせて乗り越え、安全を確保することが大切です。

酸素ボンベの準備

大規模な災害が発生すると、停電によって医療機器が使えなくなる可能性があります。生命維持に欠かせない酸素濃縮器も、電気がなければ動きません。そのため、普段から酸素吸入が必要な方は、酸素ボンベを備えておくことが重要です。

まず、普段使用している酸素の量を正確に把握しましょう。医師に相談し、一日あたりどのくらいの酸素が必要なのかを確認しておきましょう。災害時は避難所への移動なども想定し、最低でも３日から７日分の酸素を確保できる量のボンベを準備するのが望ましいです。

酸素ボンベは適切に保管しなければ、劣化したり、思わぬ事故につながる可能性があります。保管場所は、直射日光が当たらない、高温多湿にならない、風通しの良い場所を選びましょう。また、ボンベが倒れて破損するのを防ぐため、専用の固定器具を使用したり、壁に立てかけてベルトで固定するなどの対策を講じましょう。床に置く場合は、倒れにくい場所に置き、周りに物を置かないように注意が必要です。

ボンベの残量は定期的に確認し、使用期限が過ぎていないかどうかも確認しましょう。残量が少なくなっている場合は、早めに新しいボンベと交換しましょう。使用期限が切れたボンベは、適切な方法で処分してください。

酸素ボンベは、災害時に命を守る大切な備えです。日頃から適切に管理し、常に使用可能な状態を保つように心掛け、安心して災害に備えましょう。

停電への対策

電気の供給が止まる停電は、生活に大きな影響を及ぼします。特に、医療機器に頼る方や、情報を必要とする方にとっては深刻な事態になりかねません。そのため、日頃から停電への備えをしっかり行うことが大切です。

在宅で酸素療法を受けている方は、電源が不要なカセットボンベ式の酸素供給装置を準備しておきましょう。また、バッテリーで動く酸素供給装置も有効です。停電時の酸素供給を確保するために、これらの機器の状態を定期的に確認し、必要な備品を常に揃えておきましょう。

家庭用発電機も停電時に役立ちます。発電機を使うことで、電気が必要な機器を動かすことができます。ただし、発電機は必ず屋外などの空気の通りが良い場所に設置してください。屋内で使用すると、排出ガスに含まれる一酸化炭素で中毒を起こす危険があります。また、発電機の燃料や保管場所にも注意が必要です。

情報収集も停電時には重要です。停電に関する情報を得るために、電池式の懐中電灯や携帯ラジオを用意しておきましょう。スマートフォンの充電も忘れずに行いましょう。予備の電池や充電器も準備しておくと安心です。これらの機器は、停電中に必要な情報を得るために役立ちます。

日頃から、家族や近所の人と停電時の対応について話し合っておくことも大切です。停電時の連絡方法や、助けが必要な場合の対応などを確認しておきましょう。また、定期的に停電を想定した訓練を行い、実際に機器を使ってみることで、いざという時に落ち着いて行動できるようになります。

情報収集の重要性

災害は、いつどこで起こるか予測できません。だからこそ、日頃から情報収集の習慣を身につけておくことが大切です。いざという時に、適切な行動をとるためには、正確な情報に基づいて状況を判断する必要があります。

災害発生時には、様々な情報源を活用して情報を集めましょう。例えば、家庭にあるテレビやラジオは、迅速に災害情報を伝える重要な手段です。また、インターネットに接続できる環境であれば、自治体のホームページや気象庁のウェブサイトなどで、詳しい情報を確認できます。災害情報提供アプリなどをスマートフォンにインストールしておくのも良いでしょう。これらの情報源から、災害の規模や種類、避難場所の開設状況、支援物資の配布状況など、必要な情報をこまめに確認することが重要です。

特に、市町村などから発表される避難勧告や避難指示には、注意深く耳を傾けましょう。避難勧告は、危険な場所にいる人に対して、避難を促すものです。一方、避難指示は、危険が差し迫っているため、速やかに避難する必要があることを知らせるものです。これらの情報は、あなたの命を守るための大切な情報です。迷わずに指示に従い、安全な場所へ避難しましょう。

災害時には、様々な情報が飛び交い、混乱を招くこともあります。根拠のない噂や不確かな情報に惑わされず、公式な情報源からの情報に基づいて行動することが大切です。また、地域の住民同士で情報を共有することも、正確な状況把握に役立ちます。近所の人と声を掛け合い、互いに助け合うことで、災害を乗り越える力となるでしょう。どんな時でも、落ち着いて行動し、自分の安全を最優先に考えて行動することが重要です。

避難場所の確認

災害時には、安全な場所に避難することが何よりも重要です。そのためにも、日頃から自宅周辺の避難場所や避難経路を確認しておく必要があります。

避難場所には、主に二つの種類があります。一つは、指定避難所です。これは、一般住民が一時的に避難するための場所で、学校や公民館などが指定されていることが多いです。災害発生時には、多くの人がここに集まるため、プライバシーの確保が難しい場合や、物資が不足する場合もあります。

もう一つは、福祉避難所です。こちらは、高齢者や障害者、乳幼児など、特別な支援が必要な方が避難する場所です。指定避難所に比べて、一人一人に合わせたきめ細やかな支援を受けることができます。在宅酸素療法を受けている方や、人工透析が必要な方も、福祉避難所を利用できる場合があります。ただし、福祉避難所は、事前に自治体に申請が必要な場合もありますので、早急に確認し、必要な手続きを済ませておきましょう。

避難経路も、一つだけでなく複数確認しておくことが大切です。災害発生時は、道路が通行止めになったり、橋が崩落したりするなど、想定外の事態が発生する可能性があります。複数の経路を知っておくことで、状況に合わせて安全な経路を選択できます。地図で確認するだけでなく、実際に歩いてみて、危険な場所や安全な場所を確認しておくと良いでしょう。また、家族と避難場所や避難経路について話し合い、災害発生時の行動を決めておくことも大切です。連絡方法や集合場所などを事前に決めておくことで、混乱を防ぎ、安全に避難することができます。

災害はいつ起こるか分かりません。日頃からの備えが、あなたの命を守ります。今日から、避難場所や避難経路の確認を始めましょう。