急性肺傷害:知っておくべき基礎知識
防災を知りたい
先生、『急性肺傷害』って難しくてよくわからないんですけど、簡単に説明してもらえますか?
防災アドバイザー
そうだね、簡単に言うと、手術やケガなど何らかのきっかけで肺が急に傷ついて、呼吸がすごく苦しくなる病気だよ。レントゲン写真を見ると、肺が白くモヤモヤして見えるんだ。
防災を知りたい
肺が傷つくっていうのは、具体的にどういうことですか?
防災アドバイザー
肺の中の、空気を取り込むための小さな袋に、体の中の水分が漏れ出てしまうんだ。そして、肺がうまく膨らまなくなって、酸素を取り込めなくなってしまうんだよ。これが『急性肺傷害』だよ。
急性肺傷害とは。
事故や災害に関係する言葉である『急性肺傷害』について説明します。これは、アメリカとヨーロッパの専門家が集まって話し合った、急性の呼吸障害に関する考え方の一つです(これは、アメリカの呼吸器系の専門誌であるAmJRespirCritCareMed1994;149:818に掲載されています)。けがや手術など、体に負担がかかった後、12時間から48時間以内に、胸のレントゲン写真で両方の肺に影が見られ、血液中の酸素と吸っている酸素の割合(PaO2/FiO2比)が300以下になる急性の呼吸不全のことです。ただし、心臓の左側の機能低下が原因の場合は、急性肺傷害には含まれません。この急性肺傷害の中でも、PaO2/FiO2比が200以下の重い場合を、急性呼吸窮迫症候群といいます。体に負担がかかると、免疫に関わる細胞が活発になり、サイトカインなどの物質が作られることが、この病気の原因となります。急性肺傷害では、肺の毛細血管や肺胞の壁が傷つき、水分が漏れやすくなることで、肺に水が溜まります。肺の間質や肺胞に水が溜まり、肺がしぼむことで、肺を通る血液に酸素が十分に取り込まれなくなり、呼吸の効率が悪くなり、血液中の酸素が不足した状態になります。
急性肺傷害とは
急性肺傷害(急性肺しょうがい)は、肺に急速に発生する深刻な病気です。様々な要因で発症し、呼吸機能を著しく低下させる危険な状態です。
私たちの肺の中には、空気中の酸素を取り込み、体内で発生した二酸化炭素を排出するための、肺胞と呼ばれる小さな袋がたくさんあります。肺胞の周りには、毛細血管と呼ばれる細い血管が網の目のように張り巡らされており、ここで酸素と二酸化炭素の交換が行われます。急性肺傷害では、これらの肺胞や毛細血管が損傷を受けます。損傷を受けた肺胞や毛細血管は、酸素をうまく取り込めなくなり、血液中の酸素濃度が低下します。その結果、息苦しさや呼吸困難といった症状が現れます。
急性肺傷害は、外傷や手術後、感染症、薬物、化学物質の吸入など、様々な原因で引き起こされることがあります。また、アメリカとヨーロッパの合同会議で提唱された急性呼吸障害の概念の一つであり、発症から比較的短い時間で症状が現れるのが特徴です。
胸部エックス線写真で、両方の肺に浸潤影と呼ばれる白い影が見られ、血液中の酸素濃度が著しく低下している状態が、急性肺傷害を示す所見となります。ただし、心臓の働きが悪くなることで起こる呼吸不全は、急性肺傷害には含まれません。
急性肺傷害は、放置するとさらに重症化し、急性呼吸窮迫症候群(急性こきゅうきゅうはくしょうこうぐん)と呼ばれるさらに深刻な状態に進行する可能性があります。そのため、早期の診断と適切な治療が非常に重要です。呼吸が苦しい、息切れがするなどの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。
急性肺傷害の原因
急性肺傷害は、様々な要因によって引き起こされる深刻な呼吸器疾患です。その原因は多岐にわたり、直接的な肺への損傷と間接的な全身性の反応の二つに大きく分けられます。
直接的な肺への損傷を引き起こすものとしては、まず外傷が挙げられます。胸部に強い衝撃を受けると、肺の組織が挫傷したり、出血したりすることで、酸素交換機能が低下します。また、手術も原因の一つです。開胸手術や腹部手術など、大規模な手術は体に大きな負担をかけ、肺の機能に影響を与えることがあります。さらに、誤嚥も重要な要因です。食べ物や異物が気管に入り込むことで、肺に炎症が生じ、急性肺傷害につながることがあります。他にも、熱傷による吸入性障害、肺炎などの感染症も、直接的に肺を傷つけ、急性肺傷害を引き起こす可能性があります。
一方、間接的な全身性の反応としては、敗血症が代表的です。細菌感染などが原因で全身に炎症が広がると、肺にも炎症が波及し、急性肺傷害を引き起こすことがあります。また、特定の薬物の副作用として、肺に炎症が生じることがあります。さらに、体の免疫反応の過剰な働きも原因の一つです。免疫細胞から放出されるサイトカインなどの物質は、本来は体を守るために働きますが、過剰に分泌されると、かえって肺の組織を傷つけ、炎症を悪化させることがあります。このように、急性肺傷害は様々な原因によって引き起こされるため、早期発見と適切な治療が重要です。
急性肺傷害の症状
急に息が苦しくなる、いわゆる急性肺傷害は、肺胞と呼ばれる肺の小さな袋に炎症が起こり、酸素をうまく取り込めなくなる病気です。症状は様々ですが、特に注意すべき点についてご説明します。
まず息切れです。これは呼吸が速くなったり浅くなったりと、自覚症状として現れます。安静にしていても息苦しさを感じ、少し動いただけでも息が上がるようになります。
次に呼吸困難です。息切れと似ていますが、こちらは息をするのがつらく、胸が締め付けられるような感覚を伴います。肩で息をする、呼吸時に鼻の穴が大きく動く、といった様子が見られることもあります。
また、呼吸の回数が増える、頻呼吸も重要なサインです。通常よりも呼吸が速くなり、見ているだけでも息苦しさが伝わってきます。
さらに、皮膚や唇、爪の色が紫色に変色するチアノーゼにも注意が必要です。これは血液中の酸素が不足しているサインで、見逃すと大変危険です。
血圧が急激に低下することもあります。これは肺の機能低下により心臓への負担が増大することが原因の一つです。
これらの症状が現れた場合、すぐに医療機関を受診することが大切です。急性肺傷害は重症化すると、意識がなくなったり、他の臓器にも悪影響を及ぼしたりすることがあります。特に急性呼吸窮迫症候群に進行すると、命に関わる危険性が非常に高くなります。早期発見と適切な治療が救命の鍵となりますので、少しでも異変を感じたらためらわずに病院へ行きましょう。
症状 | 詳細 |
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息切れ | 呼吸が速くなったり浅くなったりする。安静時でも息苦しさを感じ、少し動くと息が上がる。 |
呼吸困難 | 息をするのがつらく、胸が締め付けられるような感覚。肩で息をする、呼吸時に鼻の穴が大きく動く。 |
頻呼吸 | 通常よりも呼吸が速くなる。 |
チアノーゼ | 皮膚や唇、爪の色が紫色に変色する。血液中の酸素不足のサイン。 |
血圧低下 | 血圧が急激に低下する。 |
急性肺傷害の診断
息が苦しい、息切れがするといった症状や、身体を診察した際の所見、胸のレントゲン写真、血液のガスを調べる検査などの結果をもとに、急性肺傷害かどうかを判断します。
胸のレントゲン写真では、左右両方の肺に影のような白い濁りが写るのが特徴です。これは、肺胞と呼ばれる、肺の中で酸素と二酸化炭素の交換を行う小さな袋に、水分や炎症を起こした細胞などが溜まっていることを示しています。
血液のガスを調べる検査では、血液にどれだけ酸素と二酸化炭素が溶け込んでいるかを測り、肺がどれくらいきちんと機能しているかを調べます。急性肺傷害の場合、血液中の酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高い状態になっていることが多いです。
急性肺傷害の原因を探るためには、血液検査や、痰の検査、気管支鏡検査といった追加の検査を行うこともあります。気管支鏡検査では、細い管を鼻や口から気管支まで挿入し、肺の状態を直接観察したり、組織を採取したりします。
急性肺傷害と似た症状を示す病気の中には、心臓の働きが悪くなることで起きる呼吸困難などもあります。そのため、急性肺傷害かどうかを正確に診断するためには、心臓の機能が正常かどうかを確かめることも大切です。心臓に問題がある場合は、心臓の治療を行うことで呼吸困難が改善されることもあります。急性肺傷害と他の病気をしっかりと見分けることで、適切な治療につなげることができます。
診断項目 | 詳細 |
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症状 | 息が苦しい、息切れ |
身体所見 | 医師による診察結果 |
胸部レントゲン | 左右両肺に白い濁り(肺胞への水分貯留) |
血液ガス検査 | 酸素濃度↓、二酸化炭素濃度↑ |
追加検査 | 血液検査、痰の検査、気管支鏡検査 |
鑑別診断 | 心機能の確認(心不全による呼吸困難との鑑別) |
急性肺傷害の治療
急性肺傷害は、肺に急激な炎症が起こり、呼吸困難を引き起こす深刻な病気です。その治療は、原因となっている病気の治療を最優先に行います。例えば、細菌による感染症が原因であれば、抗生物質を投与して感染症を抑え込む必要があります。ウイルス感染の場合は、抗ウイルス薬を使用する場合もあります。また、誤って有害な物質を吸い込んでしまった場合などは、その物質を取り除く処置を行います。
呼吸の状態を良くするために、酸素吸入は重要な治療法です。鼻やマスクから酸素を供給することで、血液中の酸素濃度を上げます。症状が重い場合は、人工呼吸器が必要になります。人工呼吸器は、肺の働きを助ける機械で、患者さんの代わりに呼吸を行い、十分な酸素を体内に送ります。
肺の炎症を抑えるために、ステロイド薬や免疫を抑える薬を使うこともあります。これらの薬は、炎症反応を鎮めることで、肺の損傷を軽減する効果が期待されます。さらに、炎症を抑える薬以外にも、肺の機能を改善するための薬が用いられる場合もあります。
水分や栄養の管理も大切です。点滴などで水分や栄養を補給し、体力の維持を図ります。急性肺傷害は、体に大きな負担がかかるため、十分な栄養が必要です。
非常に重い場合は、体外式膜型人工肺(エクモ)という装置を使うこともあります。エクモは、血液を体外に取り出し、酸素を加え、二酸化炭素を取り除いた後、再び体内に戻す装置です。肺の機能が著しく低下している場合、エクモを使って生命維持を図ります。急性肺傷害の治療は、集中的な治療が必要となるため、集中治療室で行われます。専門の医療チームが常時、患者さんの状態を監視し、適切な治療を行います。
治療項目 | 詳細 |
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原因疾患への対処 |
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呼吸管理 |
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炎症抑制 |
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水分・栄養管理 | 点滴による補給 |
重症例への対応 | 体外式膜型人工肺(エクモ) |
治療場所 | 集中治療室 |
急性肺傷害の予防
急性肺傷害(以下、肺傷害)は、肺の機能が急激に低下する重篤な病気であり、命に関わることもあります。早期発見と適切な治療が必要ですが、予防も大変重要です。肺傷害の予防は、大きく分けて以下の3つの側面から考えることができます。
まず、基礎疾患の管理が重要です。例えば、喘息や慢性閉塞性肺疾患といった肺の病気を抱えている方は、定期的な受診と治療を続けることで、肺傷害の発症リスクを抑えることができます。糖尿病や高血圧などの生活習慣病も、肺傷害のリスクを高める可能性があるため、適切な管理が必要です。バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙など、健康的な生活習慣を維持することも大切です。
次に、感染症の予防に努めましょう。肺炎や敗血症といった感染症は、肺傷害の主な原因となります。これらの感染症を予防するためには、手洗いやうがいを徹底し、周囲に感染者がいる場合はマスクを着用するなどの対策が必要です。インフルエンザや肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を受けることも有効です。また、室内環境を清潔に保つことも重要です。定期的な換気を行い、空気清浄機を使用するのも良いでしょう。
最後に、手術後の肺機能低下を防ぐ対策も重要です。手術を受けた後は、早期離床を心がけ、身体を動かすことで肺の機能を維持しましょう。呼吸リハビリテーションも効果的です。医師や理学療法士の指導の下、適切な呼吸法を学び、実践することで、肺の機能回復を促進し、肺傷害の予防につながります。
これらの予防策に加えて、禁煙は肺傷害のリスクを大きく下げるため、喫煙者は禁煙に取り組むべきです。日頃から自身の健康状態に気を配り、肺傷害のリスク因子を減らすよう心がけることが、健康な肺を維持するために重要です。