圧挫症候群:その脅威と対策
防災を知りたい
先生、「圧挫症候群」って、地震で建物が倒れて下敷きになった時に起こるんですよね?
防災アドバイザー
そうだね。建物倒壊などによって体が長時間圧迫されると起こるよ。でも、地震だけでなく、事故や災害で長時間同じ姿勢でいることでも起こりうるんだ。
防災を知りたい
長時間、同じ姿勢? どういうことですか?
防災アドバイザー
例えば、がれきに挟まれて身動きが取れない状態が長時間続いたり、狭い場所に閉じ込められて同じ姿勢を強いられたりする場合などだね。そういう時にも、圧迫された部分が損傷を受け、「圧挫症候群」になる危険性があるんだよ。
圧挫症候群とは。
『圧挫症候群』というのは、災害時に手足が長時間押しつぶされたり、長く身動きが取れなくなったり、股関節や肩関節が無理な形で曲がったままになったりすることで起きる病気です。
主な原因は、長時間押しつぶされたことによる血の流れの悪さと、その後、圧迫がとけたときに血流が戻ることで筋肉が溶けてしまうことです。筋肉が溶けると、カリウムやリン、ミオグロビンなどが出てきて、血液中のカリウム濃度が高くなり、腎臓の働きが悪くなります。
また、筋肉が腫れ上がり、周りの組織を圧迫することで、再び血流が悪くなり、組織が壊死してしまうこともあります。これは『コンパートメント症候群』と呼ばれるものです。
治療としては、血液中のカリウム濃度を正常に戻したり、腎臓の働きを助ける透析を行ったり、腫れ上がった筋肉を覆っている膜を切って圧力を下げる手術をすることがあります。
概要
圧挫症候群は、長時間、体に強い圧迫が加わることで起こる深刻な病気です。地震や事故で建物が倒壊し、その下敷きになったり、長時間同じ姿勢でいることなどが原因で発症します。
この圧迫によって、筋肉組織が損傷を受けます。筋肉が押しつぶされると、筋肉細胞が壊れ、細胞内の様々な物質が血液中に流れ出します。この中には、ミオグロビンという酸素を運ぶたんぱく質やカリウムなど、通常は細胞内に存在する物質が含まれます。また、筋肉の損傷により、体内で様々な有害物質も作られます。これらの物質は、腎臓に大きな負担をかけ、腎臓の機能を低下させます。ひどい場合には、急性腎不全を引き起こし、生命に関わることもあります。
さらに危険な点は、圧迫されていた部分の血流が回復した時に起こります。救助活動などで圧迫が解除されると、損傷した筋肉からカリウムやミオグロビンなどの物質が血液中に一気に流れ込みます。カリウムの急激な上昇は心臓の動きに異常をきたし、心停止に至ることもあります。ミオグロビンは腎臓でろ過される際に腎臓の組織を傷つけ、急性腎不全を悪化させる可能性があります。
このように、圧挫症候群は多臓器に影響を及ぼす重篤な病態であり、迅速な診断と適切な治療が不可欠です。一刻も早い救出と、輸液療法による体内の有害物質の除去や、血液透析などによる腎機能のサポートが救命につながります。また、発症前の予防として、災害時の安全確保や、長時間同じ姿勢を避けるなどの工夫も大切です。
症状
物が落ちてきたり、建物が倒壊したりするなどして、長時間体に強い圧力が加わることで発症する圧挫症候群。その症状は、初期段階では、圧迫を受けた箇所の痛みや腫れとして現れます。これは、組織が損傷し、炎症反応が起きているサインです。
時間の経過とともに、筋肉の細胞が壊死していくと、患部は赤黒い紫色に変色し、皮膚の感覚が鈍くなったり、完全に麻痺したりすることがあります。触っても何も感じない、あるいは逆に激痛が走るといった状態もみられます。これは、神経へのダメージが進行していることを示しています。
さらに、圧迫によって損傷した筋肉から、ミオグロビンなどの有害物質が血液中に放出されます。このミオグロビンは腎臓に悪影響を及ぼし、腎機能を低下させる原因となります。その結果、尿量が少なくなる、あるいは全く尿が出なくなる無尿といった症状が現れることがあります。また、ミオグロビン以外にも、カリウムなどの電解質も血液中に放出され、全身の倦怠感、吐き気、嘔吐、ひどい場合には意識がもうろうとするなどの症状を引き起こすことがあります。
これらの症状は、圧迫されていた時間の長さ、圧迫されていた体の範囲の広さ、そして個々の体質によって大きく異なります。初期の症状が軽くても、後から深刻な状態に進行する可能性も十分にあります。圧迫を受けた直後は痛みや腫れが軽くても、時間の経過とともに症状が悪化することがありますので、少しでも圧迫を受けた可能性がある場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。早期の診断と適切な治療が、後遺症を最小限に抑えるために不可欠です。
段階 | 症状 | 原因 |
---|---|---|
初期 | 圧迫を受けた箇所の痛みや腫れ | 組織の損傷、炎症反応 |
中期 | 患部の変色(赤黒い紫色)、皮膚の感覚の鈍化・麻痺、触っても何も感じない、激痛 | 筋肉の壊死、神経へのダメージ |
後期 | 腎機能低下、尿量の減少・無尿、全身の倦怠感、吐き気、嘔吐、意識障害 | ミオグロビンなどの有害物質の放出、カリウムなどの電解質の放出 |
原因
圧挫症候群は、強い圧迫によって筋肉が損傷し、有害物質が血液中に流れ出すことで引き起こされる深刻な状態です。主な原因は、地震や建物の崩壊などによる体の圧迫です。地震発生時、倒壊した家屋や家具の下敷きになることで、長時間、重い物体に押しつぶされる状況に陥ることがあります。このような状況では、筋肉への血流が阻害され、酸素不足に陥ります。長時間、この状態が続くと、筋肉細胞が壊死し、ミオグロビンなどの有害物質が血液中に放出されます。
また、交通事故や雪崩、落石事故なども圧挫症候群の原因となります。これらの事故では、強い衝撃や圧迫によって、体の一部または全体が長時間挟まれる可能性があります。特に、車や岩石など、重量のある物体に押しつぶされた場合は、重症化する危険性が高まります。
さらに、長時間同じ姿勢でいることによっても、圧挫症候群を発症する可能性があります。意識を失って倒れている状態や、拘束された状態で長時間放置されている場合などが、その例です。自力で体位を変えることができないため、特定の部位に圧力が集中し続け、血流の悪化や筋肉の損傷につながります。高齢者や病気で寝たきりの方も、同じ姿勢を続けることで圧迫を受けやすく、注意が必要です。
このように、圧挫症候群は様々な原因で引き起こされます。共通しているのは、強い圧迫が長時間続くことで、筋肉への血流が阻害され、組織が損傷を受けるということです。早期発見・早期治療が重要であり、少しでも異変を感じたら、速やかに医療機関を受診することが大切です。
原因 | 状況 | 結果 |
---|---|---|
自然災害 | 地震による家屋・家具の倒壊 | 長時間、重い物体に押しつぶされる ↓ 筋肉への血流阻害、酸素不足 ↓ 筋肉細胞壊死、ミオグロビン等の有害物質放出 ↓ 圧挫症候群 |
雪崩、落石 | ||
事故 | 交通事故 | |
その他 | 意識不明、拘束 | |
高齢者、寝たきり |
治療
建物倒壊や交通事故など、体に強い圧迫を受けた際に発症する圧挫症候群。その治療で最も大切なことは、一刻も早く圧迫から解放することです。救助活動においては、この初期対応が救命に直結します。瓦礫などから救出された直後は、一見軽症に見えても、時間の経過とともに容体が急変する危険性があるため、迅速な対応が求められます。
圧迫が解除された後は、体内の水分やミネラルのバランスを調整するための点滴が行われます。長時間圧迫されていた筋肉が壊死すると、カリウムなどの電解質が血液中に流れ出し、心臓の動きに悪影響を及ぼす可能性があります。適切な輸液によって、これらの電解質異常を是正し、循環機能を維持することが重要です。また、損傷した筋肉から放出されるミオグロビンという色素たんぱく質が腎臓の働きを阻害し、急性腎不全を引き起こすことがあります。腎臓の機能を保護し、老廃物を体外へ排出するために、血液をきれいにする治療が必要となる場合もあります。
さらに、重症例では、呼吸や血液の循環を管理するための集中治療が必要になります。人工呼吸器による呼吸補助や、血圧を維持するための薬剤投与など、生命維持のための処置が行われます。圧挫症候群は、適切な治療が遅れると命に関わるだけでなく、後遺症が残る可能性もあります。手足の麻痺やしびれ、慢性腎不全などが後遺症として挙げられます。早期発見、早期治療によって、救命率を高め、後遺症を最小限に抑えることが重要です。少しでも圧迫を受けた可能性があり、体に異常を感じた場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。
段階 | 内容 | 詳細 |
---|---|---|
救助時 | 圧迫の解除 | 一刻も早く圧迫から解放することが最重要 |
容体観察 | 軽症に見えても時間の経過とともに容体が急変する可能性があるため、注意深く観察 | |
治療 | 輸液 | 体内の水分やミネラルバランスの調整、電解質異常の是正、循環機能維持 |
腎機能保護 | ミオグロビンによる急性腎不全を防ぐため、血液浄化療法などを実施 | |
集中治療 | 重症例では、人工呼吸器、薬剤投与など生命維持のための処置 | |
後遺症 | 手足の麻痺やしびれ、慢性腎不全など | 早期発見、早期治療によって後遺症を最小限に抑えることが重要 |
予防
圧挫症候群は、地震や建物の崩壊など、大きな災害時に起こりやすい恐ろしいものです。重い物が体に長時間押し付けられることで、筋肉が損傷し、その中の成分が血液中に流れ出すことで、腎臓の働きを悪くしたり、命にかかわる様々な症状を引き起こします。災害時に身を守る行動こそが、この症候群を予防するための大切な一歩です。
まず、地震や建物の倒壊などが起きた時は、一刻も早く安全な場所に移動することが重要です。物が落ちてこない、丈夫な机の下や、柱の近くなどが良いでしょう。もしも、家具やがれきの下敷きになってしまった場合は、むやみに動かず、救助を待ちましょう。大声で助けを求めるか、何かを叩いて音を出すことで、周りの人に自分の居場所を知らせましょう。
安全な場所に避難できた後も、気を抜いてはいけません。同じ姿勢を長時間続けるのは避け、できれば2時間おき程度に体勢を変えましょう。これは、血液の流れを良くし、筋肉への負担を減らすためにとても大切です。特に、病気やけがなどで意識がない人、自分で動くことが難しい人は、周りの人が注意して定期的に体位変換の補助を行う必要があります。
また、普段からの備えも大切です。家族や地域で災害発生時の行動について話し合っておきましょう。避難場所や連絡方法の確認、非常持ち出し品の準備など、いざという時に慌てずに済むように、日頃から防災意識を高めておくことが、圧挫症候群を防ぐことにつながります。災害はいつ起こるかわかりません。一人ひとりが「自分の身は自分で守る」という意識を持つことが、被害を最小限に抑えることにつながります。
状況 | 行動 | 目的 |
---|---|---|
地震発生時 | 安全な場所に移動(机の下、柱の近くなど) | 負傷を防ぐ |
家具の下敷きになった場合 | むやみに動かず、救助を待つ。大声で助けを求めるか、音を出す。 | 更なる怪我を防ぎ、発見を促す |
避難後 | 同じ姿勢を長時間続けない。2時間おきに体勢を変える。 | 血液の流れを良くし、筋肉への負担を軽減 |
意識がない、動けない人の場合 | 周りの人が定期的に体位変換の補助を行う | 同上 |
普段から | 家族や地域で災害時の行動について話し合う、避難場所や連絡方法の確認、非常持ち出し品の準備 | いざという時に慌てずに済むようにする |
予後
圧挫症候群からの回復の見通し、つまり予後は、どれだけの時間、どのくらいの範囲で体が圧迫されていたか、そして治療がどれだけ早く始められたかによって大きく変わります。その他にも、体に他に異常がないかどうかも影響します。
もし早く異常に気付き、すぐに治療を始められれば、後遺症が残らずに元通りに回復できる見込みが高くなります。しかし、長時間圧迫された状態が続いたり、治療の開始が遅れてしまうと、腎臓の働きが止まってしまう腎不全や、多くの臓器がうまく働かなくなる多臓器不全といった重い合併症を引き起こす危険があります。これは命に関わる重大な事態です。
さらに、たとえ命が助かったとしても、筋肉が壊死してしまったり、神経の働きに障害が残ったりすることもあります。この後遺症の程度も、どのくらい強く圧迫されたか、治療がどのように進んだかによって様々です。
後遺症が残ってしまった場合でも、日常生活に戻るため、体の機能を回復させるための訓練(リハビリテーション)に取り組むことが大切です。日常生活への復帰の程度も人それぞれですが、少しでも元の生活に近づけるよう努力することが重要です。
このような事態を避けるためにも、早期発見と適切な治療が何よりも重要です。少しでも体に異常を感じたら、すぐに専門家に相談しましょう。
要因 | 回復の見通し | 合併症 | 後遺症 | リハビリテーション |
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圧迫時間、範囲、治療開始の早さ、体の状態 | 早期発見・治療開始で後遺症なく回復、長時間圧迫・治療開始遅延で重合併症 | 腎不全、多臓器不全 | 筋肉壊死、神経障害 | 日常生活復帰のため重要、程度は人それぞれ |